秘密で子育てしていたら、エリート外科医が極上パパになりました
男性は体を起こし拾った百円玉を差し出す。

「はい、どうぞ」

受け取ろうと真正面から向き合ったところで、お互いハッとして息を呑んだ。

がっしりとした男らしい体躯、キリリと整った顔立ち、凛々しい表情――それらは、確かに見覚えのあるもので。

二年という時を経ても決して忘れることはない、間違いなく『彼』だった。

「涼……晴……?」

「茜音……」

お互い、戸惑った声で名前を呼び合い、そのまま固まる。

どんな顔をして向き合ったらいいだろう。きっと彼も今、同じことで頭を悩ませていると思う。

彼――涼晴は、私に聞きたいことがたくさんあるはずだ。

恋人という関係にありながら、私が一方的に連絡を絶つようなことをしてしまったから。

もちろん、そうせざるを得ない理由があったわけだけれど、なにも知らない彼からしてみれば不満のひとつも言いたかったことだろう。

とはいえ、私から連絡を絶つか、彼から別れを切り出すが、どちらが早いかだけの問題だ。みじめに捨てられてしまう前に、先手を打っただけのこと。
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