秘密で子育てしていたら、エリート外科医が極上パパになりました

「藍葉様に契約違反の警告をしに参りました」

その男は玄関に入るなり、茜音に向かって早口で言い放った。

立ち尽くす茜音の前に俺は立ち、「茜音、この人は？」と尋ねる。

「……辰己家の使用人さん」

「辰己家って誰だよ」

「涼晴の実家。涼晴って、実はいい家柄のご子息なんだって。苗字が違うのは、離婚したみたい」

唖然として口を開ける。医学部に進むくらいだから金持ちだろうとは思っていたのだが、使用人がいるレベルなのか。

ついでに、関係がバレた途端、『涼晴』と呼び捨てをする妹にも驚いた。

「で。その使用人が、こんな時間になんの用だ？」

相手の威圧感に負けじと反論すると、男は眼鏡のブリッジを押し上げながら、淡々と説明した。

「二年ほど前、藍葉様ととある契約をいたしました。辰己家の大事な跡取り息子から手を引いてくださいと。しかし、先ほど藍葉様のとった行動は、契約に違反しておりましたので」

先ほどと聞いて茜音は顔を跳ね上げる。妹にしては珍しく攻撃的な顔で男を睨んだ。

「ずっとあとをつけていたんですか！？」

「涼晴さんを見張ることが、私の職務です」

不気味なぐらい慇懃に男は一礼する。