秘密で子育てしていたら、エリート外科医が極上パパになりました
「子どもみたいなこと言わないでよ! お兄ちゃんは社長なんだよ? 従業員の人たちはどうなるの!? みんなを路頭に迷わせるつもり!?」

ハッとして兄は目を見開いた。その瞳からぼろりと涙がひと粒こぼれ落ちる。

壁に手をついたままずるずると滑り落ちていって、そのまましゃがみ込んだ。

「私ひとりのしあわせのために、たくさんの人が不幸になるなら、私は自分の不幸を選ぶ」

それに晴馬を巻き込んでしまうのは、すごく申し訳ないけれど。

だからこそ懺悔の意味も込めて、晴馬は私ひとりで責任を持って育てようと決めた。

父親がいなくてもそれに代わるくらいしあわせにしてやろうと。

「俺はっ……! お前をしあわせにすることが、死んだ親父やお袋への餞だと思ってたんだ」

嗚咽交じりに兄は怒りを吐き出す。いや、悔しさだろうか。

「……なのに……俺のせいで……」

フローリングに座り込んでしまった兄のそばにいき、その背中をそっと撫でる。

「お兄ちゃんには、充分しあわせにしてもらったよ」

兄には感謝しかない。脅されたときだって、兄を恨んだりはしなかった。
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