秘密で子育てしていたら、エリート外科医が極上パパになりました
『……茜音がしあわせになれないのは、俺のせいだった……』

「斗碧?」

俺は急いで人気のない非常階段へと向かった。人前で話せるような内容ではないと判断したからだ。

「いったいなにがあった」

斗碧がぽつりぽつりと口を開く。

そこですべてを聞かされた。茜音はなぜ父親の名を明かせなかったのか、俺と家族になれないとはどういう意味だったのか。

そして斗碧は、自分の力で掴んだと思っていた栄光が、妹の不幸の上に成り立っていたのだと悲痛な声で話してくれた。

怒りが湧き上がり、平静を保つのがやっとだった。

すべての元凶は俺の父親だ。俺の与り知らないところで、大切な人たちを苦しめ続けていた父が、憎くて憎くてたまらなかった。

『俺、自分が情けないよ。妹をおんぶしてやってるつもりだったのに、いつの間にか俺が妹を踏みつけてた』

「斗碧、違う。お前のせいじゃない。全部俺のせいだ」

こうなったのはすべて俺の責任だ。姓を変え権利を放棄して実家から逃げ出すようなことをした俺の不始末だ。

「俺が全部なんとかする。だから斗碧、思い詰めないでくれ。それから――」

きゅっと唇をかみしめて、声を絞り出す。
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