秘密で子育てしていたら、エリート外科医が極上パパになりました
彼が私の横を歩きながら真剣な顔で覗き込んできたから、逃げ場を失い足を止めた。そんな顔で問い詰められたら、はぐらかすこともできない。

思いがけず彼と再会して、動揺していただけ。ついでに仕事の疲れと寝不足もあってイライラしていた。

なにより、胸の奥がかき乱されて、自分でもよくわからないけれど、とてももやもやしている。

気を抜くと、胸の奥に封印していた感情があふれ出してしまいそうで怖い。

「……ごめんなさい。晴馬が起きちゃうと思って、焦って……」

適当に理由を見繕って謝り、私はゆっくりとベビーカーを押した。

すっかり信じた彼は「ごめん」と謝罪してスーツケースを持ち上げる。たぶん、ゴロゴロと鳴るタイヤの音がうるさいと気を遣ったのだろう。

「あ、ううん。そのくらいの音じゃ起きないから大丈夫。下ろしていいよ」

「そこまで重くないから平気だ」

「嘘、それすごく重いでしょう。だってそんな大きなスーツケース!」

彼は少しだけ笑って「じゃあ、甘えさせてもらう」と断り再びスーツケースのタイヤを転がし始めた。気を遣ってくれているのか、さっきよりも音が小さい。

「で、その子はハルマって言うんだ?」

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