秘密で子育てしていたら、エリート外科医が極上パパになりました
連れていかれたのは、都内にある立派な日本家屋のお屋敷だった。門から母屋まで長い石造りの道が延びていて、両側に並ぶ灯篭が足元をぼんやりと照らしている。

片側には日本庭園。暗くて遠くまで見渡せないが、かなり奥まで続いているようだ。

並の規模のお屋敷ではない。この辰己家とは、いったいどんな歴史を持つ家なのだろう。

私の疑問を先回りして、涼晴が解説をくれる。

「辰己家は、戦後解体された旧財閥だ。現在は医薬品製造などの化学工業を生業としている」

つまり、涼晴は旧財閥の家に産まれたということ? いい家柄どころの話ではなく、無意識のうちに背筋が伸びた。

母屋の玄関口には着物姿の使用人たちが並んでいて、私たちを中に案内してくれた。日本庭園に面した長い長い廊下の先に、この家の主人――涼晴の父親の部屋があった。

「失礼いたします。涼晴さんとお客さまをお連れしました」

使用人の女性が声をかけると、中から「入れ」という厳格な声が響いてきた。

襖を開けると、声の主は深い緑色の着物を纏い座卓にどっしりと腰を据えていた。
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