秘密で子育てしていたら、エリート外科医が極上パパになりました
頑固そうな表情は、涼晴とあまり似ていない。父親というには貫禄がありすぎて、祖父といってもいいくらいの年齢の男性だった。

「こんな時間に押しかけてきて、不躾だとは思わんか」

地鳴りのような低い声に圧倒され、私はぶるっと身を震わせる。そのひと言だけで全身の自由を奪われたようだ。

涼晴は怯まず堂々と、でもいつもよりは若干硬い声で「アポはとりましたよ」と反論する。

「相手の顔色もうかがえんのか」

「ご機嫌を取りたくてやってきたわけではありませんから」

涼晴は部屋の入口に立ったまま話を続ける。話し合いのテーブルに着く気はないという意思表示だろうか。なにしろ、殴り込みだと表現していたくらいだ。

「いい加減、私を一族繁栄の手段として使うのをやめていただきたい。教授の娘さんと結婚するつもりはありませんし、家業を継ぐ気もありません。そのためにわざわざ医者になって、姓まで変えたというのに」

父親は視線をこちらには向けぬまま、難しい顔で緑茶に手を伸ばした。

使用人がお盆に二杯の緑茶を載せてやってきたが、父親は「不要だ」と言って追い払う。

「ワガママを許した覚えはない。長男としての自覚を持て。お前以外に誰が家を継ぐというんだ」
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