秘密で子育てしていたら、エリート外科医が極上パパになりました
「兄を出来損ない呼ばわりするのはあなただけです。誰もが兄の人格や手腕を認めている。あれほど身を尽くしてくれているのに、どうして認めないのですか」

涼晴は父親の正面に向かうと、正座をして座卓に拳を強く置いた。お互い、決して引かぬまま視線を交わらせる。

「だから俺は医者になったんです。わざわざ苗字を変えるなどというまどろっこしい手段をとったのは、兄や姉を後継者として認めてほしかったからだ。俺は自立して、この家とは違うフィールドで彼らを支援するつもりだった」

家業は確か、医薬品製造などの化学工業だと言っていたか。医師という仕事とは異なるように見えて、医療という分野で繋がっているのだろう。

だから涼晴は、医師になることを選んだの? 兄姉たちと違う道を進みながらも、根底には同じ思いがあるのかもしれない。

「あなたは、母の裏切りを許せないだけでしょう。しかし、世の女性すべてが人を裏切るわけではない。兄や姉に当たるのは不条理です」

父親をここまで女性不信にさせた原因は、どうやら母親にあるようだ。

根深い憎悪があるのか、父親は激しく涼晴を睨みつけたまま。説得が届いているとは思えない。
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