秘密で子育てしていたら、エリート外科医が極上パパになりました
「っ、なんで知って――」

「さっき自分で口にしただろう。忘れたの?」

唖然として口を押さえる。私、無意識のうちに口にしてた? 自覚がないとか、どれだけ疲れてるの……。

睡眠不足がかなり限界にきているのかもしれない。

「ねぇ。ハルマの『ハル』って――」

「季節の『春』よ! 春生まれなの!」

涼晴の『晴』だとバレる前に、適当な漢字をあてる。彼は納得した様子で、そうかと頷いた。

「……で、その弁当は、茜音と旦那さんの分?」

ドキリとして、ベビーカーのハンドルを持つ手に力が入った。

本当は兄の分。でも、夫がいると嘘をついたほうが、スムーズに話が進むだろう。

「……そう」

目を合わせずに答えると。

「……そうか」

シンプルな返事がきた。実直な彼は、私の言葉を疑いもしなかったようだ。

自分の言葉に締めつけられて胸が痛む。同時に、彼の放った三文字が重たくて罪悪感が押し寄せてくる。

彼と連絡を取らなくなって、もう二年が経った。

その間、私のことを少しでも思い出してくれたりしただろうか。

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