秘密で子育てしていたら、エリート外科医が極上パパになりました
「いい加減、兄や姉たちを信じてください。母があなたを裏切ろうとも、彼らは決して裏切らない。どんなに酷い仕打ちをされても、ずっとあなたのそばにいるじゃありませんか。それとも、今度はあなたが裏切りますか。実の子どもたちを。母親がしたのと同じように」

父親はハッとしたように目を見開き息を呑む。

涼晴の言葉が彼の胸に届いたのか、届かなかったのか。

答えはわからないまま、私たちは一礼して屋敷を出た。



帰り道の車中で、涼晴は辰己家の事情を説明してくれた。

異常なまでに亭主関白な父親に愛想を尽かし、母親は駆け落ち同然で家を出ていった。その出来事が、父親の価値観をいっそう頑固に歪めていった。

当初、父親は兄を後継に推していたため、経営に興味のなかった涼晴は医者の道に進んだ。

「父は昔気質な人だから、『先生』と呼ばれるような職業には弱いんだ。だから俺が医者になったとき、少なからず喜んでくれていたよ」

だが、涼晴の兄がジェンダーレスを主張するようになり、事態は一転した。

兄は賢く経営に長けており、現在も家業の要職についてはいるが、父親は価値観の相容れない兄を毛嫌いするようになり、後継ぎには別の人間を据えると言い出した。
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