秘密で子育てしていたら、エリート外科医が極上パパになりました
声をかけてみたものの、これは私から催促していいことではないと口を噤んだ。

私は涼晴の子どもを、本人の承諾なく勝手に産んでしまった。父親になるかどうかは彼が選ぶべきことだし、たとえひとりでも最後まで育てる責任がある。

「茜音?」

突然押し黙った私に、涼晴は怪訝な顔でハンドルを握っている。

やがて車が私たちの住むマンションに到着した。時刻はもう二十四時に近い。

シンと静まり返った地下駐車場に車を停め、エンジンを切ったあと、涼晴はおもむろに私へと向き直った。

「ねぇ、茜音」

涼晴の真摯な眼差しに気づき、胸がざわつく。なにを言おうとしているのか、期待と不安を交じらせながら、その言葉の先を待つ。

「この件が無事に片付いたら、俺たち――」

そう言いかけたところで、彼はふっと目を逸らす。考え込むように沈黙して、やがてぼそりとつぶやいた。

「……こんなムードのない場所で言うような台詞じゃないか」

なんとなく彼の言いたかったことを察して、笑顔がこぼれた。

彼は晴馬のことを『一〇〇パーセント俺の子です』と信じてくれていた。
< 174 / 205 >

この作品をシェア

pagetop