秘密で子育てしていたら、エリート外科医が極上パパになりました
そんな彼が家族になろうという提案をしてこないわけがない。私が知る彼は、そういう人だ。

「……待ってる」

いつかきたるべき日に、相応しい場所で、その言葉の続きを教えてくれるだろう。

彼は優しく微笑んだあと、私の顔にかかる髪をそっと耳のうしろにかけてくれた。

そのまま頬に触れ、ゆっくりと顔を近づけて、優しいキスを落とす。

温かな唇の温度が、胸の奥深くまで浸透していく。長い間、胸の中に空いていた穴が、じんわりと埋まっていくような気がした。



一週間後。私と涼晴はそれぞれ早めに仕事を切り上げて、兄がお世話になっている重要取引先へ挨拶に向かった。

株式会社アートディヴィジョン――文化・芸術活動を支援する企業で、美術館や劇場などの運営、イベントの企画、アーティストの育成や芸術作品の販売などに携わっている。

兄はこの会社が立案した大規模な美術館建築プロジェクトを任されている。兄いわく、計画は順調に進んでおり、来年には竣工する予定だという。

私たちは臨海地区にあるアートディヴィジョン本社に足を運んだ。

アートを売りにしている会社だけあって、建物が芸術作品のように斬新で華やかだ。
< 175 / 205 >

この作品をシェア

pagetop