秘密で子育てしていたら、エリート外科医が極上パパになりました
彼からしてみたら、たまったものではないだろう。知らない間に自分の子どもが生まれていただなんて。

勝手に産んでしまったことがうしろめたい。と同時に、彼が私に真実を語ってくれなかったことが腹立たしい。別の女性と結ばれる直前まで、私に愛をささやくつもりだったのだろうか。

「……それで。涼晴はいつまで日本にいるの?」

早くアメリカに帰ってほしい。それがお互いのためだ。アメリカで奥さんも待っているのだろうし……。

私がおずおずと切り出すと、涼晴はポカンとした顔をした。

「留学が終わって帰ってきたんだ。ずっと日本にいるよ」

「え……!? ずっと……!?」

頭の中が真っ白になって、無駄に聞き返してしまう。

医師である彼は、アメリカにある大学病院へ研究留学をしていた。

しかし、渡米の真の目的は、スキルアップなどではなく、アメリカにいる高名な教授の娘さんと縁談をすること――そうとある人物から聞かされた私は、彼との関係をあきらめたのだ。

当分の間はアメリカで暮らすと聞いていた。なのに、どうしてずっと日本にいるの?

さらに詳しく尋ねようと、口を開いたところで。

「茜音~!」

うしろからかけられた大きな声に、私たちはハッとして足を止めた。

車道の脇から自転車に乗った兄がすごい勢いで走ってくる。ガードレールの継ぎ目で歩道に乗り上げると、自転車を降りて歩いてきた。

「――え!? 涼晴!? なんで!?」
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