秘密で子育てしていたら、エリート外科医が極上パパになりました

彼との記憶～愛が芽吹くまで～

――三年前、春。



会社帰り、私はいつもよりゆったりとしたペースで桜の咲く並木道を歩いた。

咲き始めの桜は甘く香しい。二日三日と経つごとに、どんどん薄れていくから、今この瞬間にしか味わえない芳香だ。

歩くペースが遅い理由は、夜桜を楽しむだけではないけれど。

私は帰宅途中にあるお弁当屋さんで、兄が好きな生姜焼き弁当と、私が好きな野菜ハンバーグ弁当を買った。兄の分はご飯が山盛りだ。

会計を済ませ、お財布にお釣りをしまおうとしたとき、手が滑り、百円玉が地面を転がっていってしまった。

「あっ――」

屈もうとした瞬間、左足首に痛みが走る。

足元に視線を落とせば、包帯にサンダルという痛々しい左足が目に飛び込んできた。これがゆっくり歩いていたもうひとつの理由だ。

遠慮なく体重をかけてしまったせいか、包帯の中がズキズキと痛みだす。ちょうど痛み止めも切れてきた頃合いだ。

躊躇っていると、スーツ姿の男性がやってきて、大きな背をスッと屈めて私の代わりに百円玉を拾ってくれた。

「あ、ありがとうございます」

体を起こした男性は、爽やかな笑顔を浮かべて私に百円玉を差し出す。