秘密で子育てしていたら、エリート外科医が極上パパになりました
少しでも掴み損ねたらこのチャンスが逃げていってしまいそうで怖くなる。

私は彼の両頬を捕まえて、その唇におっかなびっくりキスを落とした。 

始めて自分からするキス。恋愛初心者丸出しの、ただ唇をくっつけ合うだけのキス。

あまりに稚拙だったせいか、彼は困った顔で笑う。

「ちゃんと秘密にできる?」

念を押す彼に、私はこくりと頷く。すると彼は顔の角度を変え、少しだけ口を開き、私の唇を優しく含んだ。

これがきっと、恋愛上級者のキス。とても優しくて、甘くて、官能的で、私の内側に眠るまだ見ぬ欲情が引っ張り出される感じがした。

「……ん……」

うまくできなかった呼吸が、喉の奥で音になって漏れ出す。私が苦しそうにするたびに、彼はわずかに唇を離し、息継ぎの間を与えてくれる。

「キスの仕方、ちゃんと教えてあげないといけないな」

私のキスは下手過ぎて、補講が必要なようだ。彼は私をソファに転がして、何度もキスを練習させる。

舌を差し入れられるたび、呼吸のリズムが狂ってフリーズしてしまう。体が酸素を吸い込むのを忘れて、だんたん意識が朦朧としてきた。

「茜音」

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