秘密で子育てしていたら、エリート外科医が極上パパになりました
「突然妊娠したって言い出して、父親は死んだと聞かされた。嘘か本当かもわからないし、もちろん父親には会ったこともない。堕ろしゃいいのに、かわいそうだから産むっていいだして。……まぁ、堕ろしたくないって気持ちもわからなくはないが、苦労するのが目に見えているだろ?」

そう言い募ってテーブルに突っ伏す。ずっと胸の中に不満を溜めていたのだろう。茜音の出産に対して、斗碧が納得していないことは容易く見てとれた。

「……よく、許したな」

過保護な斗碧が、その話をよく受け入れたものだ。

しかし、不本意だったようで「許せるかよ!」と声を荒げながらテーブルにグラスを乱暴に置いた。

「もしその男が生きてるんだったらぶん殴ってやる!」

焦燥する斗碧に、俺はなんの言葉もかけられなかった。もしかしたらその父親は、俺かもしれない……そんな罪の意識が胸をしめつける。

「なぁ、涼晴――」

斗碧がゆっくりと顔を上げる。目元を歪め、泣き笑いのような悲痛な顔をして、目で俺に縋りついてくる。

俺にはその表情がなにを意味しているのかわからなかった。
< 73 / 205 >

この作品をシェア

pagetop