秘密で子育てしていたら、エリート外科医が極上パパになりました
そう言って涼晴は、今度は聴診器ではなく、自分の耳を晴馬の胸に近づけた。

「晴馬くんの呼吸の音を聞いてごらん。ほんの少しだけれど、ざらざらとした音が聞こえるから」

私は言われた通り、晴馬の胸に耳をつけて呼吸音を聞く。呼吸の合間にざざざざっと擦れるようなノイズが混じっている気がした。

「気管支拡張薬とか、持っていたりする?」

「いえ……」

以前咳の風邪を引いたときに呼吸が楽になるという貼付薬をもらったが、それも使い切ってしまった。

涼晴はペン型のライトを取り出して、晴馬の口の中を見る。

舌を押さえる木べらがないから難しいようで、顔の角度を変えながらなんとか覗き込んだが「腫れているね……風邪だろうな」と最終的な診断を下した。

「ひと晩様子を見て、明日小児科に行ってくれ。もし、今夜晴馬くんがあまりに息苦しそうにしていたり、呼吸の音がひどくなるようであれば連絡して。夜中でもかまわないから」

ありがとうございますと私は頭を下げる。邪魔にならないよう端から見守っていた兄は「助かるよ」と感謝を告げた。

涼晴は聴診器をバッグにしまいながら、ふと辺りを見回して苦笑する。
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