秘密で子育てしていたら、エリート外科医が極上パパになりました
「それにしても、ぬいぐるみが多いね」

カーペットの上には晴馬が振り回したぬいぐるみが十体ほど転がっていた。

「ぬいぐるみと一緒なら、私が家事をしている間も寂しくないかなと思って」

兄がいないときは、私が食事の準備をしていると晴馬がひとりになってしまう。寂しさを和らげようと遊び相手を作ってみたのだが――。

「でもやっぱり寂しいみたいで、私のあとを追いかけてキッチンに来ては、遊ぼうってグズっちゃって」

キッチンには、包丁だったり、熱いお湯だったり、危険なものがたくさん置いてあるからあまり入ってきてほしくはないのだけれど。

そんな大人の事情などお構いなしに、晴馬は私を追いかけてくる。

「どんなにお気に入りのぬいぐるみも、ママにはかなわないからね」

涼晴は穏やかにそう言うと、晴馬の手を持ち上げて「かわいいな」と甲をさすった。

その愛らしい手が自分の息子のものだと知ったら、彼はどんな顔をするだろう。

その手を離すかな? それとも、ぎゅっと抱きしめるかな?

でも、その答えが出ることはない。涼晴がその子を自分の息子だと認識する日はこないはずだから。

診察を終えた涼晴は、上の階に帰っていった。

晴馬はお昼寝、兄はリビングで休憩、私はこれからキッチンで離乳食のストックを準備しようと思う。
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