そして、僕達は溺れた
「花恋....花恋!」
「えっ」
お母さんが私を呼ぶ声でふと我に帰る。
「着いたわよ」
「あ、ごめん。ボーっとしちゃって」
「大丈夫?もう、だから家でゆっくり休んでたら良かったのに。それに...辛いでしょ?思い出したくないことまで思い出しちゃうだろうし」
「別に辛くないよ。パパは何もしてないしママだってそう信じていたから
パパの所に行ったんだし、何も辛いことなんかない」
「花恋...!」
少しムキになる私にお父さんが静止した。
「私、喉乾いたから飲み物買ってから行くね。先に行ってて」
そう言って車から降り、花恋!と
呼ばれても振り返らずに自動販売機の方へ走った。
少し走ったとこに古びた自販機を見つけた。でも、この自販機使えるのかな?機能していなさそうだけどな。。
この自販機で買うか迷っていた
その時だった。
「ギャアー!!!」
悲鳴が聞こえた。
え?何、ひったくり?
な訳ないか。こんなとこでひったくりだなんてじゃあ何?まさかゆ、幽霊?....それも違うか、まだ真っ昼間だしていうかあんなすっごい声出されたんじゃ出てきた幽霊がびっくりする。
何なんだろう。こう言う場合は行ったたほうがいいのか行って、大丈夫ですか?と声をかけたほうがいいのか。。
でも、、、もし変な人だったら。。。

ああ!もう!!
気が付いたら私は声がした方へ走り出していた。きっと誰にでもつい優しくするのはパパ似だ。

確か声がしたのはこの辺だったかな
あ。
そこに男の人が道端に座り込んでいた。
「あのー」
私は取り敢えず声をかけてみた
「あ、あー!!蜂!蜂が僕の周りを!!」
「蜂?」
周りを見ても蜂らしき虫は飛んでいない
「蜂なんて飛んでませけど...」
「え?でもさっき確かに僕追いかけられてもう少しでミツバチに刺される所でした」
「ああ、蜂はいい香りに誘われやすいから多分柔軟剤か何かに誘われたんじゃないですか?」
「ああ、それかもしれません。最近柔軟剤変えたので。でも危なかったー」
「ミツバチはそんなに誰にでも襲うわけじゃないし正しい対処をしていれば刺されたりしませんよ」
私のその言葉にその男の人はえ?そうなのという顔をした。
これはパパから昔教えてもらっていたことだ。あの時キャンプに行くはずだったから万が一蜂に襲われた時刺されたときにどうすればいいのかパパが教えてくれていたのだ。パパが亡くなってからキャンプに行くことなんか絶対ないって決めたからこの知識も役に立たないって思ったけどまさかこんな場面で役に立つなんて。嬉しさに悲しさが混じり涙が頬をつたった。
「え?え、え?あのえ?えっ.......と
あの、僕何か気の触るような事、、、」
わたしの突然の涙にかなり動揺していた。
「ううん、何でもないの。
それよりあなたも誰かのお墓前り?
あっちにお墓があったでしょ?」
「あ、はい。まあ。。」
「そっか」
しばらく2人の間に沈黙が走った。
「あ、じゃ。僕はそろそろ行きますね!良かったらこれ使ってください」
そう言って私にハンカチを差し出してくれた。
「ありがとう....ちゃんとクリーニングして返すから連絡先教えてもらってもいいかな」
私がそう言うと少し驚い顔をした。
「いいです、いいです!!そんな。
それよりこの辺りに住んでるんですか?」
どうしてそんな事を聞くんだろうと
不思議に思いながら頷いた。
「それなら、きっとまた会えますね!
僕、近いうちにこの辺りに引っ越してくるんです」
「そうなんだ、じゃあまた会えるかもね」
「はい!あ。僕、佐久間 翔太と言います。16歳です」
16歳?...って言うことは私とタメ!?
とてもそんなふうには見えない
分厚い眼鏡をかけて髪もボサボだし
どちらかと言えば20歳ぐらいの浪人生に感じた印象だった。でもタメだったなんて。。
「あのー。」
やばいジロジロ見過ぎた。
でも16には見えないよな、、、
「僕老けて見えますか?」
「へえっ!」
まさにYES!!!と叫びたくなるほど
図星だったからつい、素っ頓狂な声が出てしまった。
「別にそんな事は.....」
ここまで言っといて "ないよ"とは
言葉が出てこなかった。だってやっぱり老けている16歳なんて自分で言うのもあれだけど若いのに若いと言う言葉がこれほど似合わない人は初めてだ。
「僕、虫や植物が大好きでよく図鑑とか見てるんですけどそれの影響で視力がどんどん落ちてしまって。。中学上がる頃にはこんな分厚い眼鏡になっちゃって、、おまけにお洒落とかそう言うの僕苦手で。気が付いたらこんな見た目になってたと言うか」
そう言う問題じゃない気もするけど
そんな事を初対面の人に言えるわけもなく取り敢えず、あははと笑い誤魔化してやり過ごすしか無かった。
「ん?でもさっき蜂が来たって
ひどい声出してたけど虫、好きだったの?」
「あ、あれは!急だったので心の準備が」
やっぱこの人変な人だ。
だけどそう思えば思うほど笑いが込み上げていつのまにか声を出して笑ってた
「な、なんで笑うんですか!」
「ご、ごめん!あなた面白い人だね。
私、沢野 花恋!ハンカチありがとうね、佐久間くん」
「いえ。じゃあ僕行きますね
また、会えるといいですね」
そう言って彼は走って行った。
なんだろう、この気持ちは。
一目惚れではない。
だから恋という感情ではない。
でも何故だか分からないけど心が
ホッとするような今までにない安心感に包まれた。
そう言えばパパが亡くなってから誰かの前で笑ったり感情を出したりする事はなかった、なのにあの人の前だと
初対面だったのに何も考えずに
感情を曝け出すことができた。
どうしてそれができたのか私には分からなかった
何なんだろうあの人は、
彼は不思議な人だ。

これが出会いだった
この出会いが運命の歯車が狂うなんて
思いもしなかった。この時から全てが狂うカウントダウンが始まっていたなんで思わなかった
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