嘘が私に噛み付いた
後日談

あの嘘を吐いた日の次の日。
遠藤さんが昼休みに「本当に付き合ってるの?」と詰め寄ってきたため、強めに「お付き合いさせて頂いてます」となんの躊躇もなく言ってしまった。

その後で、これはちょっと遠藤さん以外の周りの人も含めてもう少し騙させて頂いたほうが今後も私は楽なのではないかと、そんな打算的な考えが過ぎった。

篠塚を利用することになってしまって申し訳ないなと思いつつも、あの食えない同期とこの秘密の関係が続くことをどこかで歓迎している自分もいた。

そう、あの“食えない”同期。

何を考えてるのかさっぱりわからないが、私の遠藤さんへの気持ちに唯一気付いてくれたひと。

私を好きとか抜かしていたが、どうせエイプリルフールだったのであれは嘘だったのだろう、と思う。

現にあの後、いくら詰め寄ってもうんともすんともそのことに関して反応がなかった。
紳士的にさっさと自分の路線の電車に乗って帰っていったので、私には興味が無さそうである。

けれど仮に篠塚が本当に私を好きだったとしたら。遠藤さんからの好意は気持ち悪くて、篠塚からの好意は大丈夫、だなんてなんだか自分でも虫が良すぎるのではないかと思う。

トイレから戻り、自分のデスクに足を向けると、二つ右隣に篠塚の机がある。
昼休みももう終わりに近いというのに、顔を突っ伏してスヤスヤと心地よい寝息を立てている篠塚。

こっそりと背後から近付いてみる。
腕の間から、寝ているためかあどけなく見える閉じられた瞳と血色の良い頬が見える。

綺麗な顔をしている。

頬を触って悪戯してみたい欲求に駆られる。触っちゃえ、とそっと人差し指で綺麗な頬をツンツンとすると、嫌だとでも言いたげに眉を顰める篠塚。
フフと笑って、そのまま辿るように彼を見ていく。
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