嘘が私に噛み付いた
『今日はエイプリルフールだけど、篠塚、嘘吐いてよ。暇だし。なんでもいいよ』
『うわ、なんだよその面倒くさいノリ』
『私ね、毎年毎年、今年こそは嘘吐こうって思うのに気付いたら忘れてて4月1日が終わっちゃうんだよね。まあ、分かりやすくて気の利いた嘘なんかそもそも言えないんだけど。だから、今年はその重大な任務を篠塚、キミに託そうと思って!』
『酔っ払いが。どうせ後から何にも覚えてないんだろーがこの無茶振りも』
はあ、とひとつため息をついて、篠塚が同情を込めた視線を私に向ける。
『オーケー。ここはひとつ、粋な嘘をついてやろう』
『ほう!自分で粋なんて言っちゃうとは、相当良い嘘が思いついたようで!』
わくわくとした私の視線を、ニタリと笑って受け止めて、篠塚は言った。
『今日、4月1日の12時まで、俺とお前は恋人同士だ。そういう嘘を周りに吐く』
『……ほう?』
『どうせ暇だろ?悪いようにはしないし、明日になったら嘘でしたーって言えばいい。それも許されるだろ』
くしゃ、と笑った篠塚に、その嘘のどこが粋なんだろうとクエスチョンマークが頭に浮かんだけれど、私の働かない頭の中では“どうせ暇だろ”の部分だけがフィーチャーされて。
『いいねいいね!暇だし付き合っちゃお!』
そんな、エイプリルフールだから許される嘘をついた。この嘘でどんなことが起きるかなんて予想もせず。