嘘が私に噛み付いた
こういうことが頻回に起こるようになった。
俺は前よりも浅見を気にすることが増えたし、勝手に浅見を守ってる気になっていた。
浅見を本人にも分からないくらい上手く逃がせたときはよくやった自分、と思うし、逆に遠藤さんに出し抜かれて(本人にそういう意図が無かったとしても)浅見に触られたり、浅見を連れ去られたときは酷く焦った気分になるのだ。
そんな俺の挙動不審な行動は、見ている人にはバレてしまうもので。
「篠塚って、浅見のこと良く見てるよな?なんなら浅見が遠藤さんと話してると良く割り込んでるし」
ちょうど飲み会の帰り際、浅見が遠藤さんに連れられてタクシーに乗り込むのを歯痒い思いで見つめていると、ニヤニヤと同期入社の数人にからかわれてしまった。
「いや、お前らも見たら分かると思うけど、浅見は遠藤さんのことどう見ても嫌がってんだろ。俺はそれとなく浅見を遠ざけてやろうと努力してるわけ。同期愛だよ、同期愛!」
「えー、そうなのかな?浅見もなんだかんだ遠藤さんと一緒に帰ってるし、満更でもないんじゃないの?」
「え、……満更でもない、のか?あれは」
女子に言われると正直全く自信が無くなる。
もしかしたら全て俺の勝手な妄想で、浅見は遠藤さんのことを好ましく思っていたのだろうか。もしそうだったとしたら、俺のやっていることは何て愚かで滑稽なのだろう。
「篠塚君、単純に浅見が取られるのが嫌なんでしょ!」
コロコロと笑われて、雷に打たれたような衝撃が走った。
「え、俺、浅見のこと好きなの?」
「いや、知らんわ。自分に聞け」
同期達の面白いものを見るような好奇の目すら気にならないくらい俺は衝撃を受けていた。
けれど同時にどこか納得している自分もいた。
そうなのだ。
もはや浅見が遠藤さんと話していると、俺はすごく嫌なのだ。二人の関係を阻害することは俺自身のためだったのかも知れない。
だから今日、浅見が俺の向かい側に座って、エイプリルフールの嘘をせがんで来た時に、俺の心は決まっていたのだ。
浅見を今日こそ遠藤さんから決定的に遠ざけてやる。
そうしてあわよくば打算的に、この嘘を使って浅見との距離も詰めれたら。
『ここはひとつ、粋な嘘をついてやろう』
そう言って俺は、嘘で浅見に噛み付いた。