恋の心音
「何で、そんなに真剣に授業を受けるの?」

レスリーがそう紙に書いて質問すると、澪はニコリと笑ってペンを走らせる。美しい字で「後悔したくないから」と書いてあった。

「後悔?」

レスリーが聞き返すと、澪はコクリと頷く。そしてまたペンを手にした。

「人生は一度きりだから。死ぬ時に後悔したくないの。耳が聞こえないからって全てを諦めたくない。みんなと同じくらい頑張って、みんなと同じくらい幸せに生きたいから」

死神からすればそれは綺麗事だ。しかし、そう紙に書いた澪の目は、まるで雲一つない晴天のように美しく、本心だとレスリーにはわかった。そして、澪のことを知りたいと思ったのだ。

澪は、みんなが話すように優しい人だった。困っている人に必ず手を差し伸ばし、損得を考えずに動く。そんな姿勢に、気が付けばレスリーの胸が高鳴っていた。

最初は胸の高鳴りが何なのか、理解することができなかった。しかし、音楽が好きな奏に相談し、勧められて恋愛ソングを何曲も聴いた時、頭に浮かんだのは澪だった。
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