恋の心音

「久しぶり」

レスリーはそう言い、両手の四本の指の背をくっつけて左右に離す。手話をしたことに澪は驚いていた。

「手話、練習したんだ」

レスリーがそう言いながら手を動かすと、澪は嬉しそうに笑って右手を垂直に立て、小指側で手の甲をトンと叩く。「ありがとう」という手話だ。

たったこれだけの特別でもないありふれた会話が、レスリーの恋をまた育てていく。澪のおかげでレスリーは人の心というものを知った。複雑で、繊細で、愚かなほど美しい感情たちを知ったのだ。それをもう捨てることはできない。

「お二人さん、玄関にずっと立ってないでリビングに来なよ。コーヒー淹れてあるから」

なかなかリビングに入ってこないからか、奏がリビングから顔を出して言う。奏は澪を見ると「おかえり」と手話で言い、澪も「ただいま」と嬉しそうに言っていた。

「荷物、持つよ」

大きなキャリーケースをレスリーが持つと、澪はまた「ありがとう」と言う。キャリーケースをレスリーは澪の部屋に運び、リビングへと向かった。