偽りの夫婦〜狂愛〜
悋気
「え?そうですね。私にとって…大切な方です」
「え……」
三好の表情が、柔らかくフワッと緩んだ。
それだけで……その表情を見るだけで、三好が紫龍のことをどう思っているのかわかった。

そんなつもりで、聞いたのではないのに。
ただ“魔王”の意味が知りたかっただけなのに。

「もしかして、三好さん紫龍のこと……」
「いえ、でも奥様が心配するようなことはありませんよ」
「ごめんなさい…私、知らなくて…!
あ、でも知っていたとしても、どうしたらいいか……」
「大丈夫ですよ!旦那様と私はほんとに何もありません」
フワッと微笑んだ、三好。

どうしてこの人はこんなに穏やかでいられるのだろう。
私のことが憎らしくはないのか。
少なくとも私は、三好さんと紫龍の過ごした長さに嫉妬しているのに。
「そう…ですか…」
「もうすぐ帰って来られるんですよね?旦那様。
夕食は待たれますか?」
「え?あ、はい」
「畏まりました。では、お茶を淹れましょう。
旦那様が帰って来られるまで、ゆっくりされて下さい」

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「どうぞ、ハーブティです」
「ありがとうございます。
この匂い…今日はカレーですか?」
「はい」
「あの、三好さんのカレーは人参が入ってませんよね?その代わりなのかな?茄子やピーマンが入ってる。お野菜がいっぱいでいいですよね?」
「あー、それは…
旦那様がお嫌いなんです。人参」

「え……」

陽愛は言い様のない、嫉妬に包まれていた。
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