偽りの夫婦〜狂愛〜
「は?金ない?
寧々ちゃん、大手会社の秘書じゃないの?」
「え…?それは……」
「はぁ?お前、そんな嘘ついたの?
お前の方が、よっぽどキモいじゃん!」
「………」
「まぁどうでもいいや!
陽愛、帰ろ?」

気まずい二人を置いて、紫龍と陽愛は車に乗り込んだ。
車内で、陽愛はずっと紫龍の腕にしがみついている。
「陽愛?どうしたの?やけに甘えてる…可愛い……」
陽愛がしがみついていない方の手で、頭を撫でる紫龍。
「私、言い返せなかった。紫龍のこと“異常”とか“キモい”って言われて腹が立ったのに、怖くて……。
ごめんね…どうしても怖くて、人に言い返せないの」

「いいよ!俺は陽愛が傍にいれば、ほんとに何もいらないんだよ!口先だけじゃなく、本気で。
だから、別にどうでもいい。
陽愛を傷つけたから、許せなかっただけだし。
それに……
“異常”って言葉、俺は嬉しいなぁ。
なんか“特別”って感じしない?俺の陽愛に対する愛情は、他とは違うから。
それこそ“異常”だから」
そう言って微笑む、紫龍。
陽愛は少しだけ、その黒い微笑みに寒気を感じていた。

家に帰りつき、そのまま風呂場へ。
そして今浴槽に二人、紫龍が陽愛を後ろから抱き締めている。
「食事、どうだった?」
「とっても楽しかったよ!ご飯も美味しかったし。
今度は、紫龍と行きたいな!」
「そう?じゃあ…行こうね!今度」
「うん!楽しみだな~。特にキャロットラペ……あ、紫龍、人参嫌いなんだよね?
えーと、あ、マリネ美味しかったなぁ。お肉も柔らかかったし」
「フフ…気を遣わなくていいよ!陽愛が美味しいって言うなら、挑戦してみようかな?」
「うん、美味しかったよ!人気なのわかるなぁ」
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