偽りの夫婦〜狂愛〜
「ん……」
紫龍達が床について三時間後程経った頃。
朝日が昇り始め、陽愛が目を覚ました。

まだ紫龍は眠っていた。
珍しい光景だ。
「紫龍、綺麗…寝顔。
写真撮りたい」
スマホをサイドテーブルから取ろうとするが、がっかりホールドされていて、動けない。
なんとか、もがいて這い出る。
そしてスマホを取り、カチャッと紫龍の寝顔を撮った。
待ち受けにしようと、ベッドに座り操作していると━━━
「ん……陽、愛…」
紫龍がもぞもぞと動き、陽愛の膝の上に頭を乗せてきた。
「か、可愛い……」
また紫龍の写真を撮る。
紫龍のサラサラな髪の毛や、背中の龍を撫でる。
そして紫龍のピアスに触れる。
お揃いの紫の瞳の黒い龍。
いつもは背中や、ピアスの龍は怖く感じるのに今日は穏やかで、可愛く見える。
陽愛は幸せな気分でこの状況に浸っていた。

でも━━━━━
う…どうしよう。
くしゃみしたくなってきた。
ここでくしゃみしたら、紫龍が起きて、せっかく…幸せに浸っているのに、慌ただしくなる。
だからって、我慢できな━━━━
「はくしょん…!!!」

「んぁ……あ…朝…?」
「ゲッ…し、紫龍。
まだ寝てていいよ?」
なんとか寝かそうと、頭を撫でる。
「も…覚めたよ…!おはよ、陽愛」
と起き上がり、陽愛を抱き締めた。
私のバカ!
くしゃみのバカ!

「あれ?なんで、スマホ握ってんの?」
「へ?べ、別に…時間を見ようとしてたの」
「そう。見せて?スマホ」
「え?ど、どうして?」
「ん?なんか、怪しいから…」
「怪しいって、失礼だよ!」
「じゃあ…ほんとは、なんで握ってるの?」
「だから、時間を━━━━」
「無理やり聞きだしてもいいんだよ。いいの?」

こ、怖い。
この満面の笑みが。
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