愛しい君のわがままを
3月某日、卒業式――。
「先輩!」
聞き慣れた心地のいい声に振り向くと、ボタンが全てなくなった制服がふわりと春風に舞う。
一瞬、あ、という表情をした彼女に、
「なんか、全部取られた」
と苦笑して見せると、揺らいだ大きな瞳。
それすらも可愛いと思うほどに、俺が彼女のことを好きだということを、上手く伝えられずに一年が過ぎようとしている。
部活優先、友達優先、だからって別に彼女を二の次だなんて思ったこともない。
けれど、周囲から見れば当たり前のようにそう見えているらしく、『いつか突然愛想尽かされますよ』と後輩からも脅される始末だ。