愛しい君のわがままを

首元に埋めた顔。
小さくすり寄って呟けば、ん、とくすぐったそうな可愛い吐息が漏れる。


「ボタン……ごめんな」


だらしなく前が開いたままの学生服。
それをただ留めるだけの物に、深い意味があるなんて思わない。
けど、彼女が欲しいと望んでいたものを、易々と顔も名前も知らない他人にあげてしまった自分が情けない。


「私も……取っておいてって言わなかったし」

「でも、軽率だったよな」

「……ううん。いいの」


彼女の腕が、きゅっと背中に回る。


「私には、先輩がいるから……」


寄せられた頬。
耳元の柔らかな声に、ぎゅうと胸が締め付けられる。


「なぁ……? キス、してい、」

「ダメです。」

「ですよね」


多少食い気味で拒否されて、彼女らしいと笑ってしまう。
真面目で照れ屋な彼女は、校内での過度なスキンシップを許してくれない。
それはこんな特別な卒業式という日であっても例外はないようだ。
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