研究員たちの思春期〜恋の仕方が分かりません!〜
「森里さんは、今、林くんと付き合ってるのかな」

優しい目で聞いてきた。

「はい」と答える。

「彼はすごいよね」

教授が笑う。

「近くにあんな人がいたら、みんな劣等感を抱いてしまうんじゃないかって僕は恐れていたよ」

たしかに、私だけじゃなく、先輩たちも理仁のことは一目置いていた。

後輩たちもそうだ。

「こんなにすごい人がなんでこんなところにいるんだ」というのが、理仁を見た時の第一印象だと思う。

そして、好奇心だけで時間も忘れて打ち込む姿に、研究者として劣等感を抱かざるを得ない。

自分は研究好きじゃないのかもしれない、と思ってしまう。

「そして僕も、僕が彼の才能の芽を摘んでしまうんじゃないかって、ずっとプレッシャーだった」

教授がやっと手元のコーヒーを飲む。

私もそれを見て、真似するようにコーヒーを飲んだ。

「この研究室は、貪欲な彼にとって退屈なんじゃないかって不安だったんだよ」

私は軽い衝撃を受けて首を横に振る。

「こんなことを言ったら、僕は森里さんに嫌われてしまうかもしれないけど」と笑って切り出した。

「彼には早く海外に行って欲しかったんだ」

とても自然な教授の告白が、静かに私の心を揺らした。

私はやっと、口を開く。

「私も、今の彼には海外のラボ以外に選択肢はないと思ってます」

教授の背景の、窓から見える青々とした緑に目を向ける。

もう自然が春だと認めている季節。

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