研究員たちの思春期〜恋の仕方が分かりません!〜
「でも行かれた後が不安です」

情けない。
こういうことを公私混同と言うんだと思う。

でも私は、公私混同だけでここまで過ごしてきた。

「彼が遠くへ行ってしまうのが不安ってことかな」

私は視線を教授に移して、静かに頷いた。

教授の目がしっかりと私の目を捉える。

「彼が最先端の環境で研究をしたら、世界が少し、もしかしたらすごく変わるかもしれない」

とても心地良く私の心に響いてくる教授の声。

「彼はきっと世界から求められる。今、森里さんが好きな人は、そういう人だよ」

そう言って優しく笑う。

胸がキュッと痛む。

一番その事実を私が分かっているべきだった。

近すぎて、手のひらに彼を閉じ込めようとしていたのは私だ。

研究してる彼を、私だけのものにしたかった幼さ。

私はちょっと笑って言う。

「それと、彼が抜けた後の私の研究が不安です」

壁際にあるメダカの小さな水槽を見る。

「攻めの林と、守りの森里のタッグが見れなくなるのは、僕も不安だよ」

初めて聞く枕詞に思わず笑う。

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