研究員たちの思春期〜恋の仕方が分かりません!〜
机の上に無造作に並んだ受精卵のボトル。
もうミジンコが孵化してる。

自然と孵化する季節になったんだ、と気付く。

理仁がパソコンデスクの椅子から、ベッドに座る私を見る。

「あのね」

私が切り出す。
理仁が「うん」と穏やかに答える。

「私、大丈夫」
「ん?」
「理仁と離れても大丈夫」

理仁の目が、私との間の空間に向けられる。

何も言わない。

「私は、ちゃんと奥田研究室で、ちゃんと大学院を卒業する」

理仁が少しゆったりと体を動かしながら「うん」と答える。

「それで就職する」
「うん」

理仁と目が合う。

私は笑って、「それだけ」と切り上げた。

「え、それだけ?」

理仁が拍子抜けしたように笑う。

「それだけ。それが言いたかったの」

何か考えてるように理仁が私を見つめる。

少しだけの沈黙が流れた。

「それってさ、環はアメリカに来ないってことだよね」

理仁が確認する。

「うん、ずっと日本にいるよ」

私がそう答えると、なぜか笑顔なのに、理仁の瞳が、瞳の淵がチラチラと光る。

そして静かに微笑む。

「環、結婚したいから、セックスしよう」

すごく自然で穏やかな、暖かい春の昼下がり。

私は「うん」と答えた。
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