研究員たちの思春期〜恋の仕方が分かりません!〜
深海水族館。
足元の間接照明だけで照らされた館内。

「やっぱりさ、体が透明のものに惹かれるよね」

プランクトンがいる浅瀬とは違う。
ここは光の届かない深海だ。

目の前を体が透明な生き物が泳いでいく。

「ああ、サルパ?」

理仁が言う。

「知ってるの?サルパ」

サルパとやらを目で追いかける。
クラゲみたい。
不思議な生き物。

「知らないの?サルパ」

理仁もサルパが泳ぐ水槽を眺める。

「海のプランクトンを食べつくすホヤの仲間」

そう呟く。

「何でも知ってるね」
「サルパは昔から知ってたよ」

飄々と答える。

この人、海のことなら何でも知ってるんじゃないのかな。
メジャーな水族館の年間パスポートは大体持っているくらいだ。

子どもの頃から水族館は毎週のように通っていたらしい。

「なんでミジンコなの?」
「それを今聞く?」

名前も知らないおじさんの顔した深海魚が私を睨みつけながら通り過ぎていく。

「ちゃんと聞いたことあるような、ないような」

大きく一周して、また私を睨みつけてきたから睨み返す。
本当におじさんみたいな顔した魚だ。

「キレイさと、可愛らしさと、気持ち悪さと、謎がギュッとあの小さな個体に詰まってて興味を持った」

理仁の声が暗闇に響く。

「ミジンコはずっと見てられるんだよな」

そう付け足す。

遠く理解に及ばない。

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