研究員たちの思春期〜恋の仕方が分かりません!〜
「理仁は」とやっとの思いでこぼす。

「理仁は、ミジンコのことだけ考えていればいいのに」

沼の水面に視線を落とす。

ミジンコのことだけ考えていた理仁を返して。

「俺だって必死にやってるよ、毎日毎日夜中まで論文書き続けてるよ」
「それは分かってるよ、一番近くで見てきてるから誰よりも分かってるよ」

そんなんじゃない。

好きな人が離れていくのが悲しいだけなのに、なんでこんなに想いを伝えるのが下手くそなんだろう。

「今の理仁は、ただの女ったらしだよ」
「いつ俺が女たらしたよ」

理仁が私を凍らせるような目で見る。

「私の気持ちも、勝田エリーの気持ちも、もてあそんでるだけじゃん」

理仁の目の強さに押しつぶされないように見返す。

「俺のこと好きなの?好きだったら普通に好きって勝田さんみたいに言ってくれればいいじゃん」

理仁の怒りを含んだ言葉に耳を疑った。
言葉を失う。
そんな言い方、あまりにも酷い。

私は理仁の胸を突く。

「好きだよ。理仁のことが好きだよ」

私から押されるように理仁が二歩後退りする。

私は想いの伝え方を知らない。

こんな風に、3年間の気持ちを打ち明けるなんて思ってもいなかった。

悔しい。

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