研究員たちの思春期〜恋の仕方が分かりません!〜
理仁が適当に手元の小石を投げる。

「あのさ」と突然切り出した。

石がドポンという音を立てて川に沈む。

「俺たちさ」

理仁がまた石を何個か拾う。

「あのさ」

また投げる。
そしてドポン。

「俺たちさ」

なかなかその先を言わない。

「うん」

デジャヴ。

理仁が石をまた投げようとしてやめた。

そして川の方から私の方に顔を向ける。

あの時とは違って、静かだ。

「付き合わない?」


突然、街の音が吸収されたように耳に入らなくなる。

「それは、どういう意味で」
「意味って、他に意味ある?」

ミジンコ仲間とか、と思ったけど言うのをやめた。

少しずつ、私の耳に街の音が戻ってくる。
小石を指で弄ぶ理仁。

「うん、付き合う」

ゆっくりと笑顔に変わる顔。

私たちは水面が反射する光の中、キスをした。

目を瞑っていると、川の流れる音だけが聞こえてくる。

ずっとこんな瞬間が続いたらいいな。

明日も明後日も、今みたいな夢のような日常を味わいたいな。

名残惜しさを残して離れた時、理仁が笑った。

「これ以上してると、俺がオス化する」

そう言って下心が溢れ出しそうな口元を隠す。

「やめてください」

私も笑って、肩を軽く叩いた。

ゆっくり、ぼちぼちホテルに向かって、夜の鴨川を歩いて帰る。

「ホテルの部屋で続きがしたいです」
「それは無理です」

そんな私たちの会話を祇園の光たちだけが聞いていた。
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