身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
四年振りの再会
――四年前
『結婚しないか』
『え?』
一瞬、すべての音が消えた気がした。
『俺は、これから先も美桜とずっと一緒にいたい。愛してる、美桜。俺と結婚しよう』
本当に突然で、まったく予想していなかったこの展開に驚いてしまう。
でも、次第に嬉しさが込み上げて、心が幸せで満たされていく。だって、大好きな人にプロポーズをしてもらえたのだから。
『美桜、返事は?』
優しい低い声に名前を呼ばれて、ハッと顔を上げる。
返事はもちろん〝はい、よろこんで〟
でも、その言葉をぐっと飲み込んだ。
『――ごめんなさい。結婚は、できません』
私は大好きな彼に向かって深く頭を下げる。
気が付くと瞳には涙がたまり視界がかすんでぼやけていく。スカートを握りしめる手の甲にポタンと雫が一滴落ちた。
もしも、あの噂さえ知らなければ……。
私は今、彼のプロポーズを純粋によろこべて、すぐにうなずいていたはずなのに。偶然とはいえ、あんな噂を聞かなければよかった。
いや、聞いておいてよかったのかもしれない。知らないままだったら、私は彼の輝かしい未来を奪っていたことになる。
柊一さんは私なんかを選んではいけない特別な人なのだから――
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