身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
それからも冬真は、大好きな愛菜ちゃんの話にすっかり夢中になってしまい、お客さんについては忘れてしまったらしい。
リビングに戻ると、大好きなうさぎのぬいぐるみのぴょんぴょんと遊び始めた。
時計を確認すると十七時半。あと三十分もすれば柊一さんがやって来る。それまでに夕食の支度をすませるため私は再び手を動かし始めた。
今日のメインはから揚げだ。冬真にリクエストされて作ったけれど、そういえば柊一さんもから揚げが好きだった。大企業の御曹司のわりに好物はわりと庶民派だったなぁと思い出す。
そして、約束の十八時を五分ほど過ぎた頃。部屋にチャイム音が鳴った。洗い物の途中だったので濡れた手をエプロンで拭きながら玄関へと向かい、扉を開ける。
「こんばんは」
そこにいたのはスーツ姿の柊一さんだった。
「悪い。着替えてこようと思ったんだけど時間がなくて」
「今日はお休みだったはずでは?」
「その予定だったんだけど、急きょ仕事になって千葉にある式場に行ってたんだ」
「千葉ですか」
どうやらそこでの仕事を終えてから来たらしい。私の都合に合わせてもらったけれど、やっぱりどう考えても柊一さんの方が忙しそうだ。