身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
「ここまで迷わずに来られました?」
「ああ、大丈夫。住所教えてもらったからナビ通りに運転してきた。圭太が」
「榊さんが送ってくれたんですね」
「仕事先から直接来たからな」
そう答えた柊一さんの視線が私から、私の足元に移動する。そこにはさっきまでリビングにいたはずの冬真の姿があって、私の後ろにこっそりと隠れながら柊一さんをちらちらと見ていた。
「こんばんは。冬真君だよね」
柊一さんはゆっくりとその場にしゃがみこむと、目線を冬真に合わせてにっこりと微笑む。けれど、冬真が返事をしないので、小さな肩を私はつんつんと優しくたたいた。
「冬真。ママのお友達だよ。ご挨拶は?」
すると、私の言葉を聞いた柊一さんが「友達?」と、不思議そうに首を傾げる。
「あ、えっと。冬真には柊一さんのことをそう説明したので」
「なるほど」
理解してくれたのか柊一さんは頷くと、その視線を再び冬真へと戻す。
「初めまして、冬真君。君のお母さんのお友達の芹沢柊一といいます。よろしくね」
柊一さんがゆっくりと丁寧に挨拶するものの、どうやら冬真は持ち前の人見知りを発揮しているようで、私の後ろに素早く隠れてしまった。
だけど、柊一さんのことは気になるようで、ちらちらと顔を出している。