身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない

 ちらりと視線だけを上げて確認してみる。

 ……ああ、やっぱりそうだ。今、私の目の前にいるのは私のかつての恋人、そして私の最愛の息子である冬真の父親――芹沢柊一さん。

 こうして顔を合わせるのは四年振りだ。たしか今年で三十六歳になる彼は、あの頃から少しも見た目が変わっていない。

 一八〇センチは優に超えるすらりとした体躯。きれいに整えられた艶のある黒髪から覗く、くっきりとした二重の目と、きりっとした眉。筋の通った高い鼻に、薄い唇。

 身に着けているスリーピーススーツは彼の体形にぴったりと合っていて、おそらくオーダーメイドの高級品なのだろう。

 比べて今の私ときたら、最後に美容院に行ったのがもう一年以上も前で、とれかけのパーマをごまかすために後ろで緩くひとつに結んでいる。朝はいつもバタバタしているから化粧もしっかりできないし、羽織っているコートだってもう五年も前のものだ。

 私たちが付き合っていたなんて、今ではもう想像できないくらいに、私と柊一さんには大きな差が生まれてしまった。

 いや、初めから私たちにはどうしても埋められない違いがたくさんあった。だからあの日、私は彼との別れを選んだのだから……。

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