身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
今、彼と再会してはいけない。早くこの場を去ろう。もしかしたら柊一さんはまだ私に気が付いていないかもしれないから。
「それでは、私は失礼します」
私は、うつむいたまま女性スタッフにぺこりと頭を下げる。そのままこの場を立ち去るために一歩を踏み出そうとした、そのとき。
「――ちょっと待て」
突然、腕を掴まれてグイっと引き寄せられた。
「お前……もしかして、美桜?」
懐かしい声に名前を呼ばれた瞬間、体がぴくりと反応してしまう。
今すぐこの腕を振り解いて走り出そう。私は、この人と再会するわけにはいかない。
四年前、どんな思いで私が彼との別れを選んだのか。もしも今、彼の顔を見てしまったら、あの日の決意が揺らいでしまいそうでこわい。それなのに……。
「すまない。顔をよく見せてくれ」
低く甘い声に誘われるように、私は顔を上げてしまった。
「……やっと見つけた」
そう呟いた柊一さんの表情が微かにほころんだような気がした。けれど、すぐにまた元の固い表情に戻る。