身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
『ドレスショーのことだけど――』
「またその話ですか。行きませんよ。その話をするならもう切ります」
『待てよ。じゃあ別の話をするから』
「別の話もしたくないです」
私がそう答えたあと、それまで軽快にしゃべり続けていた柊一さんの声がぴたりと止まった。しばらくすると、さきほどまでの声の調子とは一転して、真面目な低い声で問いかけてくる。
『――美桜。お前、様子がおかしいけどどうした? なにかあったのか』
どうやら気付かれていたらしい。
あれだけ分かりやすく素っ気ない返事を続けていたら当然かもしれない。
「今日は話をしたい気分ではないのでもう切ります」
『美桜?』
「ごめんなさい」
これ以上は柊一さんと話をしたくなくて、一方的に電話を切った。
はぁ……と、思わずため息がこぼれてしまう。
せっかく電話をくれたのに、柊一さんに冷たい態度を取ってしまった自分に対してさらに落ち込んでしまう。
そのあともどんよりとした気持ちを抱えたまま洗濯物を畳み終え、夕食で使った食器を洗ったり、明日の登園に必要なものを冬真のリュックに詰めたりしていると、あっという間に夜の九時を過ぎていた。