身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない

「美桜はむかしからわかりやすいな。気持ちがすぐに声や態度に出るから」

 柊一さんの片手が私の頭にそっと触れると、そのままゆっくり撫でられる。よしよし、と、まるで小さな子供をあやすような撫で方を繰り返す。

 突然抱き締められたことに初めのうちは動揺していたものの、私の頭を撫でる柊一さんの優しい手つきに、次第に気持ちが落ち着いていく。

 すると、さっきまで話すべきか迷っていたはずの言葉がするっと口からこぼれてきた。

「今日、保育園のお絵描きの時間に、冬真がお友達の描いた絵をクレヨンでぐちゃぐちゃに塗り潰してしまったんです。それで、そのお友達のお母さんと帰りに会って、少し話をしたんですけど……」

 そこで言葉が止まってしまう。瑠衣君のお母さんに言われた言葉を思い出した途端、視界がじわじわとぼやけ始めた。

 さっきまでどんなにつらくても涙までは出てこなかったのに。

「そのお母さんに言われちゃいました。冬真が絵をぐちゃぐちゃにしてしまったのは、私がひとりで冬真を育てているからしつけができていないせいだって。愛情も足りていないからだって」

 次第に話し声が震えてきて、目から涙がぽろぽろと零れ落ちてくる。

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