身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
柊一さんに連れられて辿り着いたのは、リリーオブザバリーから歩いてすぐの場所にある大通り沿いの広場。
中央には噴水があり、高く噴出された水の飛沫が太陽の光に照らされてきらきらと輝いて見える。
「あまり時間がないからここで少し話をしよう」
そう言って、柊一さんは近くにある木製のベンチに腰を下ろした。
それから視線を私に向けて、左手で自身の隣をポンポンと軽く叩く。どうやらここに座れということらしい。
私は渋々と歩み寄り、ベンチのすみっこ――柊一さんとはぎりぎりまで距離を取って腰を下ろした。それを見ていた柊一さんがふと苦笑を漏らす。
「そうあからさまに避けるなよ。傷つくだろ」
「私の知っている芹沢さんは、そんなことで傷つくような人じゃないはずです」
「まさか。俺にだって人並みの感情はあるから傷つくよ。ただ、それを隠すのが人より少し上手なだけだ」
……ああ、そうだ。この人はそういう人だった。
柊一さんがまだ私の恋人だったときから、いや上司として初めて出会ったときから、彼は常にポーカーフェイスで、感情をあまり表に出すような人ではなかった。だからいつも彼の本心がわからなかったんだっけ。