身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
「わぁ、見えたよ。ゾウさんいる」
ようやく念願のゾウを見られた冬真の嬉しそうな声が聞こえる。
柊一さんはこの場にいる人たちの中ではずば抜けて背が高いので、彼に抱っこされたことで冬真は前に人がいても視界を遮られずにゾウが見えているはずだ。
「お鼻長いね。あっ、あっちのゾウさんの方が大きい」
「そうだな。手前にいるゾウはまだ赤ちゃんかな」
冬真と柊一さんがゾウを見ながら楽しそうに話す声が聞こえる。けれど、三人の中で私だけまだゾウが見えていないので会話に参加できない。
それでも前にいる人たちの隙間からなんとかゾウを見ようときょろきょろと頭を動かしたり、背伸びをしたりしていると、いつの間にかそんな私を見ていたらしい柊一さんと目が合った。
「次は美桜を抱っこしてあげようか?」
笑いながら言われたので、きっとこれは私をからかって楽しんでいるのだろう。
「けっこうです」
そう答えて軽く睨むと、私の反応を見た柊一さんはもっと楽しそうに笑った。
そのあとも順番に動物を見て回り、途中にあった触れあい動物コーナーには冬真の好きなうさぎがいたので、嬉しそうに頭を撫でて可愛がっていた。