身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
「芹沢さんは、セリザワブライダルの社長になったんですね」
マドレーヌの配達とだけ告げた私の言葉が引っ掛かっているのか、柊一さんがまだ質問をしたそうに私をじっと見つめている。けれど、それを無視して私は言葉を続けた。
「おめでとうございます。よかったですね、予定通り社長になれて」
「代わりにお前を失ったけどな」
即座に返された彼の言葉に、一瞬だけ胸がズキンと痛んだ。
自分の現状に触れられたくなくて話を変えたつもりだったけれど、どうやらさらに自分を追い込む話題を作ってしまったらしい。
「そういえば、美桜は俺が社長をしている姿を知らないんだよな。その前に、俺に黙ってうちの会社を辞めたから」
「……そうですね」
私がセリザワブライダルを退社したのは四年前の一月。それから三か月後の四月に柊一さんは社長へと就任したはずだから、彼の言う通り私は柊一さんがあの会社で社長をしている姿を知らない。
「どうして四年前、俺の前から姿を消した。あのとき言ったよな。俺を信じて待って欲しいって。俺を信じられなかったのか?」
「違います」
思わず声を張り上げてしまい、慌てて口を閉じた。声のボリュームを落して言葉を続ける。
「柊一さんのことは信じていました。でも……」