身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
そこまで話したとき、コートのポケットの中でスマートフォンが震えていることに気が付いた。
お店にいる牧子さんからだろうか。そういえば、配達の途中だったことを思い出し、ポケットからスマートフォンを取り出す。
「出てもいいですか」
話の途中だったので柊一さんに確認を取ると、彼は黙って頷いてくれた。私はスマートフォンに耳を当てる。
「はい、島本です。すみません、牧子さ――」
言い掛けた言葉が途中で止まった。
『こんにちは、島本さん』
聞こえてきた声は牧子さんではなかった。
女性の声ではあるが、ハキハキと大きな声で喋るこの女性は、冬真の通っている保育園の先生だ。
瞬間、嫌な予感がした。
「いつもお世話になってます。あの、冬真に何かありましたか」
『ええ。冬真君お熱が出ちゃったの。ぶり返しちゃったのかしらね。午前中はお外で元気に遊んでいたし、お昼ご飯も完食できたんだけど、お昼寝の前に吐いちゃったのよ』
「えっ、吐いちゃったんですか⁉」
普段からよく熱を出す子だけれど、吐くことはあまりない。だから、余計に心配になってしまう。
すると、私の動揺が電話越しに伝わったのか、先生が落ち着いた様子で説明してくれる。