身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
『大丈夫よ、お母さん。吐いちゃったけど、それですっきりしたのか、今はぐっすりとお昼寝しているから。ただお熱がちょっと高いのよ。だから今日はもうおうちに帰ってゆっくりと休んだ方がいいと思うの』
「わかりました。すぐに迎えに行きます」
『焦らないで大丈夫だからね。気を付けて来て』
そこで通話は切れた。スマホを耳から外すと、なんだか一気に力が抜けて、つい口から小さな息が漏れてしまう。
吐いたと聞いたときは不安になったけど、先生の話によると熱は高いものの、冬真には特に変わった様子は見られないそうだ。
やはり今朝は下がったはずの熱がぶり返してしまったのだろう。念のためもう一日休ませておけばよかったと朝の自分の判断を後悔する。
とりあえず、今は早く冬真のお迎えに行かないと。
私は、スマートフォンをコートのポケットにしまうと勢いよくベンチから立ち上がる。今すぐにでも走り出したいところだけど、振り向いて柊一さんに声を掛けた。
「急いで戻らないといけないので帰ります。さようなら」
そういえば、四年前はさよならも言えなかったな……。
ふと思い出した過去に胸が痛む。
あの日、もう二度と会わない覚悟を決めて私は柊一さんから離れた。それなのに、こうして顔を合わせてしまうとその決心が簡単に揺らぎそうになる。