身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
それでも私は彼に背中を向けた。
もう二度と会わない。会いたくない。
無理やり自分に言い聞かせながらこの場を去ろうとすると、「待て」と低い声に呼び止められて腕を掴まれる。
「お前、子供がいるのか?」
「えっ」
その言葉に、私は勢いよく彼を振り返った。
「さっきの電話の内容、全部聞こえてた」
「あっ……」
先生の声が大きかったし、私も冬真の様子が心配で途中から柊一さんが隣にいるのも忘れて話し続けてしまった。別の場所へ移動すればよかったと今になって後悔するけどもう遅い。
柊一さんは冬真の存在を知らない。冬真を身籠ったとわかったとき、彼との関係はもう切れていたから。
もちろんこのまま伝えるつもりもない。けれど、どうしよう。子供がいることを知られてしまった。
動揺している私に、柊一さんがさらに質問を続ける。
「いくつ?」
「えっ」
「子供の年齢」
「えっと、今年で……」
四歳になる。正直にそう伝えたら、勘のいいこの人ならもしかして気付いてしまうかもしれない。
「一歳になります」
「そんなに小さいうちから保育園に預けているのか?」
「そうですね。仕事があるので……」
怪しまれただろうか。