身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
でも、子供が一歳になる前から働きに出る母親なんて今の時代ならわりといると思う。実際、私も冬真を保育園に預け始めたのは八か月の頃だったから。
どうやら柊一さんも納得してくれたらしい。
「子供がいるということは結婚もしているんだよな」
「はい」
彼につく嘘が増えていく。それに胸が痛むものの仕方がない。今は、柊一さんに冬真の存在を知られないことのほうが優先だ。
すると、柊一さんが私の左腕を持ち上げると手をじっと見つめる。
「指輪はしていないのか?」
その鋭い指摘に、思わず視線が揺れた。けれど、すぐにまた嘘でこの場をやり過ごす。
「指輪は、仕事中なので外しています」
「普段はつけていると?」
「はい」
「そうか」
柊一さんが軽く息を吐き出すのがわかった。それから「結婚してるのか」と、静かに呟く。
「本音を言えば、俺が美桜を幸せにしてあげたかったが、今さらもう遅いよな。今の美桜が幸せな生活を送れているならそれで十分だ。俺は、お前につらい思いをさせてしまったから」
その言葉に、ふと思い出すのは四年前。
『もう私に関わらないでください』と、大好きな彼に嘘をつかなければならなかったあの日のことで……。