身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
たぶん、勘の鋭い彼なら気が付いたはずだ。
私の子供が一歳ではなく四歳になると知って、もしかしたら自分の子供かもしれない、と……。
「おーい。そろそろ開店時間だぞ」
厨房の奥から治さんの声が聞こえた。その声にハッとなり、牧子さんと同時に時計に視線を向けると、十時まであと三分ほど。
「私、シャッター開けてきます」
柊一さんの名刺をズボンのポケットにしまうと、私はカウンターを飛び出した。それから、入口の扉へと駆け寄る。
「あっ、牧子さん。気にしないでください。大丈夫なので」
振り返ってから笑顔でそう答えると、牧子さんがホッとしたように胸を撫で下ろす。
「そう。それならよかったわ。社長さんにしっかりと連絡してあげてね」
「はい」
牧子さんは、私たちの関係を何も知らない。だから、仕方ない。あの日、ごまかしたはずの冬真の年齢を柊一さんに知られてしまったけれど、牧子さんのせいじゃない。
入口の扉を開けるためノブに手を掛けた手がぶるぶると震えていることに気が付く。
動揺が消えない。
どうしよう、どうしよう。
柊一さんに、冬真の存在を知られてしまったかもしれない。